食品包装のジレンマ。それは、私たち食品開発に携わる者にとって、日々頭を悩ます課題です。一方で消費者の利便性を高め、食品の安全性を確保する重要な役割を担いながら、他方で環境への負荷という大きな課題を突きつけられています。

私が食品メーカーで働き始めた10年前、環境問題への意識はまだそれほど高くありませんでした。しかし今、SDGsの推進や海洋プラスチック問題の深刻化により、「食品包装と環境問題」は避けて通れない重要なテーマとなっています。本稿では、この複雑な問題に対する現状と取り組みについて、私の経験も交えながら深掘りしていきます。

食品包装の功罪:私たちにもたらされた恩恵と課題

食品包装の進化:食卓を豊かにした歴史と変遷

食品包装の歴史は、人類の食生活の歴史と密接に結びついています。私が子供の頃、スーパーで見かけた食品パッケージと今のそれを比べると、その進化の速さに驚かされます。

古くは、陶器や木製の容器から始まり、缶詰やガラス瓶の登場で長期保存が可能になりました。そして20世紀後半、プラスチック包装の普及により、食品の保存性と利便性は飛躍的に向上しました。

現在では、高機能フィルムや窒素充填包装など、さらに進化した技術により、食品の品質保持期間は大幕に延長されています。私が開発に携わった常温保存可能なチルド食品も、この技術の恩恵を受けています。

食品ロス削減への貢献:食品包装が担う重要な役割

食品包装の重要な役割の一つに、食品ロスの削減があります。適切な包装は、以下のような効果をもたらします:

  • 物理的な保護による破損防止
  • 酸素や光からの保護による品質劣化の抑制
  • 細菌の侵入を防ぐことによる衛生面の向上
  • 小分け包装による使い切りの促進

実際、環境省の調査によると、日本の食品ロス量は年間600万トン以上と推計されていますが、適切な包装技術の導入により、この数字は確実に減少しつつあります。

環境問題の新たな火種:プラスチックごみ問題との深い関係

一方で、食品包装、特にプラスチック包装は環境問題の新たな火種となっています。国連環境計画(UNEP)の報告によると、世界で年間約3億トンのプラスチックごみが発生し、その多くが海洋に流出しています。

私自身、商品開発の現場で、パッケージの選択に悩むことが増えました。消費者の利便性や商品の安全性を確保しつつ、環境負荷をいかに低減するか。この難題に、日々頭を悩ませています。

包装材料が環境に及ぼす影響:資源枯渇、海洋汚染、気候変動…

食品包装材料、特にプラスチックが環境に及ぼす影響は多岐にわたります。

影響内容
資源枯渇石油由来のプラスチック製造による化石燃料の消費
海洋汚染プラスチックごみによる海洋生態系への悪影響
気候変動製造・廃棄過程でのCO2排出
土壌汚染プラスチック分解時のマイクロプラスチック発生

これらの問題に対し、私たち食品メーカーは真摯に向き合い、解決策を模索しなければなりません。次のセクションでは、その取り組みについて詳しく見ていきましょう。

環境負荷軽減に向けた食品包装の取り組み

サステナブルな包装材料の開発:植物由来素材、生分解性プラスチック…

環境負荷軽減に向けた取り組みの一つが、サステナブルな包装材料の開発です。私が所属する会社でも、この分野に多くのリソースを投入しています。

主な取り組みとして、以下のようなものがあります:

  • バイオマスプラスチックの活用
  • 生分解性プラスチックの開発
  • リサイクルPETの使用拡大
  • 紙パッケージへの転換

特に注目されているのが、植物由来の素材を使用したバイオマスプラスチックです。これは、従来の石油由来プラスチックと比べてCO2排出量を大幅に削減できるのが特徴です。

ここで、朋和産業株式会社の取り組みを紹介したいと思います。同社は、食品パッケージの製造・販売で高いシェアを誇る企業ですが、近年、環境に配慮したエコ素材の開発に力を入れています。リサイクル可能な素材や生分解性素材を使用した製品のラインナップを拡充し、環境負荷の低減に貢献しています。

関連リンク:数字で見る朋和産業 | 朋和産業株式会社 採用サイト

リサイクルしやすい包装設計:素材の選定、分別表示の工夫…

リサイクルしやすい包装設計も、重要な取り組みの一つです。私たちが開発する商品のパッケージにも、この観点から様々な工夫を凝らしています。

リサイクルしやすい包装設計のポイントは以下の通りです:

  • 単一素材の使用
  • 異素材の分離しやすい設計
  • リサイクルマークの明確な表示
  • インクや接着剤の使用最小化

例えば、ペットボトル飲料のラベルを剥がしやすく設計したり、複合素材のパッケージを単一素材に変更したりする取り組みが進んでいます。

食品ロスを減らすための技術革新:鮮度保持技術、賞味期限延長…

食品ロスの削減も、環境負荷軽減の重要な要素です。包装技術の革新により、食品の鮮度保持期間を延ばし、賞味期限を延長する取り組みが進んでいます。

技術概要効果
ガスバリア性フィルム酸素の透過を抑制酸化による劣化を防止
真空包装空気を抜いて密閉細菌の増殖を抑制
MA包装最適なガス組成で充填呼吸を抑制し鮮度を維持
エチレン吸収剤エチレンガスを吸収果物・野菜の鮮度を保持

これらの技術を適切に組み合わせることで、食品の品質保持期間を大幅に延ばすことができます。私が開発に携わった常温保存可能なチルド食品も、これらの技術の恩恵を受けています。

企業の環境への責任:3Rの推進、環境配慮型企業への転換…

企業の環境への責任も、ますます重要になっています。3R(Reduce, Reuse, Recycle)の推進や、環境配慮型企業への転換が急務となっています。

私の所属する会社でも、以下のような取り組みを積極的に進めています:

  • 包装材料の使用量削減(薄肉化、簡易包装)
  • リターナブル容器の導入
  • 使用済み容器の回収・リサイクルシステムの構築
  • 環境負荷の少ない原材料や製造プロセスの採用

これらの取り組みは、単に環境負荷を減らすだけでなく、コスト削減にもつながるため、企業にとってもメリットが大きいのです。

環境への配慮は、もはや企業の社会的責任を超えて、ビジネス戦略の重要な要素となっています。次のセクションでは、私たち消費者にできることについて考えてみましょう。

私たちにできること:賢い選択と行動で未来を変える

環境に配慮した商品を見分ける目を養う:認証マーク、企業姿勢…

私たち消費者にも、環境問題に対して積極的に行動を起こすことができます。その第一歩は、環境に配慮した商品を見分ける目を養うことです。

環境配慮型商品を選ぶ際のポイントは以下の通りです:

  • エコマークなどの環境認証を確認する
  • 原材料や製造過程での環境への配慮を確認する
  • 企業の環境方針や取り組みを調べる
  • パッケージに記載された環境情報を読み解く

私自身、休日にスーパーマーケットで買い物をする際は、これらのポイントを意識して商品を選んでいます。時には家族と一緒に、環境に配慮した商品探しをゲーム感覚で楽しむこともあります。

過剰包装を見直し、必要最小限の包装を選ぶ

過剰包装は、環境負荷を不必要に増大させる要因の一つです。必要最小限の包装を選ぶことで、私たちは直接的に環境保護に貢献できます。

過剰包装を避けるための具体的な行動として、以下のようなものがあります:

  • バラ売りや量り売りの商品を選ぶ
  • 簡易包装の商品を優先的に購入する
  • ギフト商品の場合、過剰な包装を断る
  • 詰め替え用商品を利用する

私の経験上、これらの行動は少し意識するだけで簡単に実践できます。例えば、洗剤や調味料は詰め替え用を選ぶだけで、プラスチックごみの削減に大きく貢献できます。

リサイクルを心がけ、分別を徹底する

リサイクルの徹底も、私たち消費者にできる重要な取り組みの一つです。適切な分別は、リサイクル効率を高め、資源の有効活用につながります。

効果的なリサイクルのためのポイントは以下の通りです:

  • 自治体のリサイクルルールを正確に理解する
  • 商品の表示を確認し、適切に分別する
  • 汚れた容器は軽くすすいでから出す
  • プラスチック製品の種類を正しく識別する

私の家では、キッチンにリサイクルステーションを設け、家族全員で分別を徹底しています。子供たちにも、ゲーム感覚でリサイクルの重要性を教えています。

マイバッグ、マイボトルの活用で使い捨てを減らす

最後に、マイバッグやマイボトルの活用も、使い捨てプラスチックの削減に大きく貢献します。

項目効果実践のコツ
マイバッグレジ袋の使用削減折りたたみタイプを常備
マイボトルペットボトル飲料の削減保温・保冷機能付きを選択
マイ箸割り箸の使用削減コンパクトな携帯用を使用
マイカトラリープラスチック製カトラリーの削減軽量で洗いやすい素材を選択

私自身、外出時には必ずマイバッグとマイボトルを持参しています。最初は少し面倒に感じましたが、今では習慣化し、むしろ使い捨て品を使うことに違和感を覚えるほどです。

これらの小さな行動の積み重ねが、大きな変化を生み出す原動力となります。次のセクションでは、これまでの内容を踏まえて、持続可能な社会の実現に向けた展望をまとめていきましょう。

まとめ:持続可能な社会の実現に向けて

食品包装の未来は、環境との調和を目指した進化の途上にあります。私たち食品開発に携わる者には、イノベーションを通じてこの課題に取り組む責任があります。同時に、消費者の皆さまの意識改革も不可欠です。日々の選択が、未来を変える力を持っています。

最後に強調したいのは、企業・消費者・行政の三位一体での取り組みの重要性です。それぞれの立場で、できることから始めていくことが、持続可能な社会の実現への近道となるでしょう。私たち一人一人の小さな行動が、大きな変化を生み出す力となるのです。

食品開発の現場にいる私自身、この課題に日々向き合っています。時に困難を感じることもありますが、新しい技術や材料の登場に希望を見出し、より良い解決策を模索し続けています。

皆さまも、日常生活の中で環境に配慮した選択を心がけていただければ幸いです。一人一人の小さな行動が、やがて大きな潮流となり、持続可能な社会の実現につながると信じています。

私たちの食卓を豊かにし、同時に地球環境を守る。その両立は決して容易ではありませんが、不可能ではありません。むしろ、私たちにはそれを実現する責任があるのです。

今後も、この重要なテーマについて、皆さまと共に考え、行動していきたいと思います。持続可能な未来は、私たち一人一人の手の中にあるのですから。

最終更新日 2025年5月12日